◆抗菌薬を「必要なときに、必要なだけ」
「熱が出たから抗菌薬を飲んだほうがいい」「咳や鼻水が続くから、抗菌薬を出してほしい」
小児科では、このようなご相談を受けることがあります。しかし、子どもの「かぜ」の多くはウイルスによる感染症であり、抗菌薬(抗生物質)は効きません。抗菌薬は、細菌による感染症に対して使用する薬です。国の「抗微生物薬適正使用の手引き」でも、感冒や急性気管支炎など、多くの急性気道感染症では抗菌薬を使用しないことが推奨されています。(AMR臨床リファレンスセンター)では、なぜ「抗菌薬を使わないこと」が大切なのでしょうか。その大きな理由の一つが、**薬剤耐性菌(AMR)**です。抗菌薬を必要以上に使用すると、細菌が抗菌薬に負けない性質を獲得し、これまで効いていた薬が効きにくくなることがあります。日本では、MRSAやフルオロキノロン耐性大腸菌による菌血症だけでも、年間約8,000人が亡くなっていると推計されています。これは、2025年の日本の交通事故による年間死者数2,547人を大きく上回る数字です。(国立健康危機管理研究機構)薬剤耐性は、遠い将来の話ではありません。すでに私たちの身近にある問題です。
だからこそ、当院では「抗菌薬を出さないこと」を目的にするのではなく、本当に抗菌薬が必要な感染症を見極め、必要な場合には適切な薬を、適切な量・期間で使用することを大切にします。例えば、一般的なかぜ、急性気管支炎などでは、抗菌薬を使用せず、症状を和らげながら自然に回復する経過を見守ることがあります。
一方で、細菌性肺炎、溶連菌による咽頭炎、細菌性中耳炎など、抗菌薬による治療が必要と判断した場合には、きちんと診断・治療を行います。特に小さなお子さんでは、年齢や全身状態、症状の経過を考慮しながら、必要に応じて検査や再診をお願いすることもあります。(AMR臨床リファレンスセンター)
「抗菌薬を出さない=何もしない」ではありません。
お子さんの状態を丁寧に診察し、抗菌薬が必要なのか、必要ないのかを判断することそのものが、小児科医の重要な仕事だと考えています。今のお子さんを治すこと。そして、将来のお子さんたちにも「効く抗菌薬」を残していくこと。その両方を大切にした診療を、私たちは行っていきます。どうかご理解いただけますようよろしくお願いします。